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Wednesday, May 01, 2002

Topic of the Month 2002年5月

5月のトピック
トレースについてもう一度考えてみよう


GWは楽しかったですか?
私に黄金週間ではなく、波乱週間でした。
「私の人生、いつも崖っぷちなんだよねぇ」と友だちに言うと、
「私もよー!」と誰もが言います。
類は友を呼ぶのか、それともみんな崖っぷちにいるのか・・・。



そこで前書きへ・・・
トレースと崖っぷちは全然関係無いんですが・・・
「トレースについてもう一度考えてみよう」の「もう一度」は、私にとっての「もう一度」です。いままで石けん作りをしてきて、「トレース命!」と思ったこともあれば、「トレースは必要ない。」と思ったこともあります。そして2002年5月現在の私のトレースについての考えを、余談を含めつつここにまとめてみました。


トレースとは?
トレース(trace) は名詞で「跡」という意味です。また跡を残すことから、動詞で「線を描く、線を引く」という意味もあります。泡立て器からしたたる石けん生地で、鍋の石けん生地の表面に線を描くと跡が残る状態を言います。
余談ですが、トレーシング・ペーパーのトレーシングとは、このトレースと同じ言葉です。
トレースが出た石けん生地はどんな感じ?
青豆のスープ、ボタージュスープ、マヨネーズ、中華あんかけ、カスタードソース・・・トレースの出た生地を表わす言葉はおいしそうなものばかり。石けん生地の表面に線を描ける状態と言っても、「結構さらり」から「かなりもったり」までその状態は様々です。どれが一番いいんでしょう?それは、ケースバイケースです。私は以下のように分けて考えています。
(注)一般論ではなく私の中でのカテゴリーです。どうぞ他の文献と混乱しませんようお願いします。
・さらりトレース 
トレースが軽く出る感じ。ライトトレースと言います。線を描くと1秒以内で消えてしまいます。光りの加減で線が見えたり見えなかったりします。オプションをしっかり混ぜ込みたいならば、この状態で入れておくといいでしょう。フレグランスオイルなど、生地を急にもったりさせるオプションは、ライトトレースで入れます。
・とろりトレース
ライトトレースよりもしっかりトレースが出ます。とろりとしていますが、もったりはしていません。線を描くと表面に線があるのがはっきりと見えますが、1~2秒くらいで消えます。私はこれを型入れのタイミングの目安にしています(私はだいたい1秒の方)。この段階で型入れをすると、流し込んだ石けん生地の表面がデコボコせず、きれいに平らに落ち着きます。ライトトレースでオプションを入れた後も、とろりとした状態まで撹拌しています。
*石けん教室でデモをすると、「もっともったりさせないといけないと思っていた!」とよく言われます。ということは、多くのみなさんが考える型入れのタイミングより、私の方が早いのかもしれません。
・もったりトレース
しっかりトレースが出ます。線を描くとしっかりと表面に残ります。オートミールなどゴロゴロとした質感のオプションは、ライトトレースで入れると全部沈んでしまいますが、もったりした状態で入れるといい感じで宙に浮きます。またマーブル模様をくっきりとコントラストを付けて出したいときは、このタイミングまでもっていくとよいでしょう。ただし、この状態で型入れをすると、流し込んだ石けん生地の表面がデコボコしてしまいがちです。型入れをしたら、型をトントンとたたいて生地の表面を落ち着かせましょう。
*もったりした状態でフレグランスオイルなどを入れると、型に流し込めないくらい生地がぼってりしてしまうことがあります。フレグランスオイルはくれぐれも早めに加えましょう。
各々のカテゴリーにはっきりした境界線がある訳ではありません。「ややとろり」とか「かなりもったり」とか、そういう状態もありますよね。だから上の分類はあくまでも大まかな目安です。
トレースが出るってつまりどういうこと?
トレースが出る=型入れができる、と一般的に言われています。これはどういうことかと言うと、型入れ後に石けん生地が分離しないくらい鹸化している、ということです。撹拌が不十分なまま型入れをすると、分離しちゃうことありますよね。ですから大切なのは生地が分離しない状態にすること、そしてその目安としてトレースの出具合をチェックするのです。よく「トレースが出ないまま型入れしたけど失敗でしょうか?」という質問を受けますが、トレースが出ない=型入れできない、ではないのです。トレースはあくまでも目安にすぎません。生地が分離しない状態かどうかをチェックしましょう。
かなりオタクな余談になりますが、何年か前に「分離の有無だけが問題なら、トレースは必要ない」と思ったときがありました。生地が分離せずにいられる限界のさらさらの状態で型入れをし、その後の保温で鹸化をしっかり進める、という方法で石けんを作っていました。これだと生地がかなりなめらかに仕上がると当時思っていたのです。しかも早い時期に型入れできるので、生地の温度が高く、私の望む保温の仕方には理想的だったのです(温度が命!な時代だった)。だけどこのギリギリのさらさら状態というのがかなりリスキーで、失敗すると当然分離、あるいはそれに近い状態になります(やはり崖っぷちな作り方!)。結局その後、いろいろ試行錯誤があり、やっぱりトレースっていいじゃーん!と思い直しました。現在はトレースをいい目安として使っていますが、絶対的な条件だとは思っていません。そして温度が命!とも思っていません(笑)
1時間しっかり撹拌してもトレースが出ないみなさん、10~15分くらい置いてみて生地が分離していますか?透明の液体が上に、不透明な液体が下に分かれているようにに見えますか?もしそうでなければ、型入れしちゃいましょうー。
偽トレースに気をつけよう。
トレースと分離の関係がわかったところで、偽トレースについて書きます。偽トレース(fake trace, false trace)とは、トレースが出たように見える状態、しかし鹸化が不十分なため、型入れ後に分離を起こす状態を言います。これにはふたつあります。
(1)ブレンダーを使う場合
ブレンダーを使うと局部が集中的に撹拌されます。もったりした一部分だけを見て、トレースが出たのと勘違いすることがあります。そのまま型入れすると混ぜムラから分離することがあります。ブレンダーを使うときは、かならず最後は手で全体的に撹拌してから型入れしましょう!
(2)融点の高い油脂類を使う場合
融点の高い油脂類とは、個体から液体になる温度が高いオイルやワックスです。石けん作りでは、常温で半固形のココナツ&パーム、固形のラード&牛脂、そして特にビーズワックスやステアリン酸などをさします。
オイルとアルカリを混ぜて撹拌をはじめると、生地の温度が徐々に下がっていく場合があります(寒いときやバッチサイズが小さいときなど)。鹸化が十分に進んでいない状態で生地の温度が下がれば、融点の高い油脂類は固まっていきます。これとトレースが出たのを勘違いして型入れをすると、保温中に生地が分離することがあります。ココ、パーム、ラード、牛脂などは生地温度が25度~30度くらいまでは大丈夫だと思うので、偽トレースで失敗することはまず無いと思うのですが、融点が60度くらいある(と思う)ビーズワックスやステアリン酸は、普段石けん作りをするときの40ー50度くらいでは必然的に固まろうとする力が働きます。これをトレースと間違えると、鹸化が不十分なまま型入れ=分離となる恐れがありますから気を付けてください。この二つ(または他のワックス類)を扱う場合はやや高めの温度を保ちつつ撹拌を続けるとよいでしょう。かと言って80度くらいにすると、温度が高すぎても分離しますから、温度管理に気を付けて石けんを作ってください。
*融点は私のアバウトな記憶です。融点を調べるなら石けんよりキャンドル系の本がおすすめ。
またまた余談ですが、私がfake traceという言葉を初めて聞いたときは、(1)のことだけを差していました。いつの間にか(2)も含まれるようになり、近年に出版された"Essentially Soap" by Dr. Robert McDaniel という本では(2)のことのみ触れていたように思います。時代の流れとともに言葉が変わるのはおもしろいですね。
トレースと鹸化の関係
トレースの話しをするときに、「十分な鹸化」とか「不十分な鹸化」という言葉を使いましたが、トレースが出た時点で何パーセントが鹸化しているのかよくわかりません。トレースと鹸化を具体的に照らし合わせて発言した文献その他を見たことがありません。私が今まで聞いた中で一番それらしきものは「トレースが出た時点で半分も鹸化していない」という表現のみです。
これはなんでかというと、やはり鹸化という概念が化学であるのに対して、トレースというのはあくまでも石けん作りの目安にしか過ぎないからだと思います。トレースは化学の用語ではありません。トレースは石けん作りというクラフト分野の専門用語とでも言うんでしょうか。料理でも「ツノが立つくらい泡立てる」と言っても、その弾力を化学的にはかって決める訳ではありませんよね。観察したり、成功や失敗を繰り返しながら感覚的につかんでいくものです。石けん作りのトレースも同様です。石けん作りを始めた頃はトレースの感じをつかむのが難しいかもしれませんが、人の作るのを見たり自分で数をこなすうちに、自分の満足のいく型入れのタイミングを見てとれるようになるでしょう。


最後に
トレースについて、いかがでした?
私が一番伝えたいことは赤字にしてあります。ふっと忘れてしまいがちなんですが、ときどき思い出してみてくださいね。そうすると石けん作りのプロセスで何が大切かがわかるのではないかと思います。
BGMはFMから流れるエリック・クラブトン、その他。(&だんながそれに合わせて弾いていた。)
大学時代にFMをかけながら論文書いてたのを思い出しました。ちょっとノスタルジック~。