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Monday, May 01, 2000

Topic of the Month 2000年5月

5月のトピック:美人薄命自然短命!?
~石鹸寿命&延命研究~

*はじめに

実は「美人は薄命か?」についてはここでは述べません(皆よぅく知ってるでしょ、うしし)。今回のトピックは手作り石鹸及び原材料の寿命、そして延命研究です。ついでにちょっとその他の手作り自然化粧品もカバーします。「寿命&延命」は他の石鹸トピック同様、一般化しにくいのと相反する意見が日々飛び交うため、ここに書かれたことはあくまでも「目安」に過ぎません。残念ながらスーパーで買う牛乳のように「賞味期限X月Y日」とはいかないんですね。と言う訳で、白黒はっきりしてないのが石鹸のいいところ、ファジーな和風ロジックに妙にしっくりくるよね(いい加減な理屈)。さ、始めから責任逃れしたらちょっと楽になりました。でははじまり、はじまり~。
(注)ここでは「悪くなる」「腐る」「痛む」「酸化する」「防腐」などの表現を定義付けせずかなりアバウトに使っています。許して!

石鹸の「命」とは?
手作り石鹸の寿命は?という質問をよく受けます。自然の原材料を使っているのだから長持ちしないだろう、無添加だから腐りやすいんだろう、と人は思う訳ですね。では石鹸の「寿命」が指すところの「命」とは何でしょう?化学反応からできた石鹸という物質の命のことかな?オプション材料の植物油や精油などの原材料の命?「石鹸が腐る」とは一体何が腐るんでしょう?「腐る」って一体どういうことなんでしょう?
まずは石鹸の「命」はどのように絶たれてゆくのか考えてみます。石鹸やその他の手作り自然化粧品が悪くなるのは大きく分けて二つの理由があります。ひとつは油の酸化による変質、もうひとつは水の存在による微生物や細菌・カビの繁殖です。つまり石鹸や自然化粧品の寿命を考えるときは、そこに油が含まれているのか水が含まれているのか、原材料を考えるとわかりやすいですね。

・油の変質・酸化

人間のみならず生物にとって不可欠な酸素。でも酸素があるから酸化=老化するんですね。これは油も同じです。酸化した油は悪臭を放ち、石鹸や自然化粧品に含まれる油の酸化が進むと変色がおきます。つまり「色も変わっちゃったし臭いもおかしいな」って思ったら潮時です。油の酸化のスピードは種類によって様々です。油を構成する脂肪酸の中でも特にリノール酸が多い油は酸化の進みが早いと言われています。逆にオレイン酸やステアリン酸は比較的酸化しにくい脂肪酸と言われています。酸化は一度始まるとどんどんスピードを増していきます。鉄の「さび」だって、一度さびつくとあっという間に広がりますよね。油の酸化も同様に一度酸化が始まると酸化がさらなる酸化を生み、変質がどんどん広がっていきます。酸化の対象となるのは過剰油脂石鹸や油から作るクリーム、バスオイルなどです。鮮度の良い原材料を選ぶこと、酸化しやすい原材料を大量に使用しないこと、使い切れない量を作らないこと、適切な場所で保存すること、天然抗酸化剤の使用することなどが延命対策として考えられます。

・水の存在によるバクテリア・細菌の繁殖

水のあるところに生命あり。微生物や菌などもれっきとした生命です。シンプルライフに徹した彼等はうまい草餅なぞなくとも、水があれば生き生き成長できるんですね。しかしそういった微生物や菌が生き生きすると自然化粧品がスキンケアとして使えなくなってしまいます。(だってカビは顔に塗りたくないよね?)水系の自然化粧品は作る時ばかりでなく、実際に使用する際にも衛生管理を怠るとたちまち菌が繁殖します。例えば手を洗わずに手作りローションの口の部分に指が触れただけでも、細菌が繁殖する可能性が高くなります。ですから水を使った自然化粧品の場合、作る段階での衛生状態ばかりでなく使用最中の衛生状態によっても寿命が左右されてきますよね。衛生状態が悪ければ3日から1週間でカビが生えてきます。バクテリアやカビの対象となるのは水と油を乳化させたローションやクリーム、ハーブティや野菜ジュースなど水分から作るローションなどです。鮮度の良い原材料を選ぶこと、作る際に器具や容器の衛生状態に気を付けること、そして短期間で使い切れるだけを作ること、衛生的な保存状態を心がけること、天然防腐剤を加えること、などが延命対策として考えられます。ちなみに手作り石鹸にも水分が含まれていますが、石鹸はアルカリ性のため究極の高温多湿の悪条件が揃わない限りカビなどが生える心配はありません。



*延命研究

(1)原材料選び
自然石鹸や化粧品に使われるほとんどのものは植物性です。一般的に油脂は動物性にくらべ植物性のものは酸化が早くすすみます。各オイルの寿命はオイルを構成する脂肪酸などによって変わってきますが、特に酸化しやすいのはスィートアーモンドオイル、ヘンプシードオイル、月見草オイル、ローズヒップオイル、ピーナツオイルなどです。保存状態にも大きく左右されますが、早ければ3ヵ月以内に酸化の症状を見せる場合があります。紅花やひまわり油も保存状態が悪いと半年くらいの命になってしまうかも。逆に寿命と無縁と思われるほど長持ちするのはホホバオイル、そして牛脂やラードです。特に牛脂やラードは冷凍保存ができることもあり長期保存が可能です。精油の寿命は種類によって様々です。一般に寿命が早いと言われているのはシトラス系の精油です(これは酸化のせいなのか単なる揮発のせいなのかわかりませんが)。逆にパーチューリのように年を重ねるほど良くなる熟成型の精油もあります。ドライハーブの場合は接している面が多ければ多いほど酸素にふれる面が多く酸化がすすみやすい、とどこかで聞いたことがあります。例えば葉のハーブなどそのままより粉末など細かくされているほうがそれだけ酸素に触れる面が多い=酸化しやすいということらしいです。酸化のサインはオイルや精油の場合は「におい」が一番わかりやすいサインです。オイルから悪臭がしたり、精油の香りが変わってしまったりしたらもうさよならです。ドライハーブは効能が弱くなる以外にはよくわからないです、ごめん。
原材料選びのポイントは回転の良い販売先から買うことと個人消費なら半年から1年で使い切るくらいの量を購入することだと思います(寿命の短いオイルは数ヵ月以内に使いきれるくらい)。つまり普通に食料品を買う感覚で原材料選びをすれば間違いないですよね。
(2)制作時のコントロール
石鹸を作る場合、酸化しやすいオイルを大量に入れれば当然石鹸も寿命が短くなります。スイートアーモンドベースに月見草油でスーパーファットした石鹸と牛脂ベースにホホバでスーパーファットした石鹸。前者は酸化の進みが早く、後者はいつまでも石鹸らしさを保つことが予想できますよね。石鹸の場合、過剰油脂の割合も酸化に影響してきます。鹸化率95%と85%。85%の方が過剰油脂が多いため、寿命が短くなりやすいですよね。ローションなど乳化タイプの自然化粧品を作る場合は道具など熱湯消毒して使うといいでしょう。あと基本的なことですが取り扱う「手」も清潔にしておく必要があります。但し自分で使うものだから化学研究室のように神経質になる必要はないと思いますけど。
それから作るのが楽しいからって消費できないほど大量に作ってしまえば当然余りが出ます。「余り」はどんどん悪くなっていき、しまいには使えないものになり捨てられてしまいます。せっかく作ったのに腐ってしまって悲しい!と思うなら最初の段階で制作量をコントロールしたらいいですよね。衝動的に次から次へと作っていけば必ず「いらないモノ」が出てきます。ここはショッピングの感覚で考えればわかりやすいですよね。衝動買いしたら『実は「欲」を満たすためでそのモノは「必要」じゃなかった』ってことあるよね?必要じゃないと思われたら石鹸はすぐにスネて腐るよ。
(3)天然防腐剤
石鹸や自然化粧品を作るときに天然防腐剤を加え寿命を若干延ばすことができます。「防腐剤」というのは便宜上まとめて使う言葉に過ぎず、つまりは各原材料の持つ成分に酸化や細菌の繁殖を妨ぐ役割があるということです。以下、植物性の防腐剤を紹介しますが、水溶性のものは水に油溶性のものは油の防腐に役立ちます。(注)石鹸を個人の趣味で作っている場合は、以下に紹介するものを「防腐目的」で加える必要はまずありません。
Vitamin E (tocopherol)
ビタミンEは油溶性でややねっとりした黄色い液体で、酸化を防ぐ役割があります。お肌の老化防止クリームやその他の化粧品に多く使われている成分ですよね。お肌に良いばかりでなく、自然化粧品を作るときにクリームやローションに加えることで油の酸化を遅らせることができます。石鹸に入れた場合は鹸化により水溶性に変化してしまいます。石鹸の分子は水にくっつく部分と油にくっつく部分があり、ビタミンEは最終的に水の方にくっついてしまうんです。ですから過剰油脂には届きそうで届かない。つまり過剰油脂の酸化は防げないんです。ビタミンEそのものは高価な品ですが、小麦胚芽油に多く含まれていたり、ラードや牛脂のような動物性油脂にも含まれています。
延命効果:油の酸化を防ぐ、油で作った化粧品の酸化を防ぐ、CP石鹸の過剰油脂の酸化は防げないがリバッチで過剰油脂とビタミンEを加えたら効果アリとみた
ROE (rosemary oleoresin extract)
ローズマリーエキスは濃い緑色のどろどろした半液体状のもので、ほんのりローズマリーの香りがします。油溶性で酸化防止の役割があり苛性ソーダに反応することもないため、石鹸の過剰油脂の酸化防止剤として最近注目を浴びてきました。石鹸の過剰油脂ばかりでなく、その他植物油の酸化防止にも使用されています。
延命効果:石鹸の過剰油脂酸化防止、植物油やオイルベースの自然化粧品の酸化防止
GSE (grapefruit seed extract)
グレープフルーツシードエキスは同フルーツの種やパルプを乾燥させグリセリンで溶かしたものです。GSEに含まれるビオフラボノイドと言われる成分は水溶性で酸化防止の役割があると言われています。中には細菌やバクテリアの繁殖を防ぐという話もありますが、化学実験などの報告では「効果無し」とされています。GSEの効果に関してはソーパー達の間で常に議論されていますが、現在は「効能無し」派の方が多くなってきています。中には酸化防止効果すら疑う人もたくさん出てきました。
延命効果:裸の王様の衣装らしい
Gum benzoin
ガムベンゾインは東南アジアに生息する木から採取&抽出され、カビなどの繁殖を抑える役割があります。主にクリームやローションなど水と油を乳化させた自然化粧品に加えられたり、リバッチ法でフルーツジュースなどを加えた場合に加えられたりします。酸性のもとでもアルカリ性のもとでもその効果を発揮することができますが、CP石鹸はカビることはまずないので防腐目的だけで加える必要はありません。
延命効果:乳化した自然化粧品や生物を加えたリバッチ石鹸のカビ防止
Essential oils
精油の中にはバクテリアやカビの繁殖を抑えたり殺菌効果のあるものがあります。ローズマリーやティーツリーなどが代表的ですが、精油の種類は多く効能も様々です。興味のある人は精油の本で殺菌効果などで調べてみるといいと思いますよ。以外にたくさんの精油がそのカテゴリーにあてはまるはずです。
延命効果:乳化クリームやローションの殺菌効果
(4)保存法
酸素・光・高温は酸化を促進させます。酸化を防ぐためにはこういった酸化促進するものを極力避ける必要があります。熟成中の石鹸の場合、空気を飛ばし乾燥させる必要があるため、ある程度空気が流れている場所に保管しなければなりません。ですから酸素を避けて保存するというのは難しいですね。しかしその他の二つはできる限り避けて保存してください。特に光は避けた方がいいと思います。光を避けることで温度もやや下げることができるからです。(光があれば温度も上がりますよね。)光は直射日光ばかりでなく人工的なライトも避けた方が無難です。手作り石鹸の寿命は一般的に一年くらいを言われていますが、これはあくまでも目安に過ぎず実際は保存状態によって大きく変わってきます。例えば私の石鹸で真夏に太陽がさんさんと当たる場所で放置しておいた石鹸は数ヵ月で酸化してしまいましたが、台所の流しの下の収納スペースに保管してあるひまわり油の石鹸は2年経った現在も美しい色と微かな香りを保っています。使わない石鹸がある場合はとにかく暗くて涼しい場所に保存してみてください。そういった場所が確保できなりなら冷蔵庫でも良いかもしれないですね。植物油などの原材料も同様に高温や光を避けて保存してください。特に寿命が短いものは冷蔵保存をおすすめします。自作のローションなども冷蔵保存が一番寿命が延びやすいでしょう。一番のおすすめは「家の中で一番光の当たらない場所」を探し、そこに石鹸を保存することです。


*最後に

いつも最後まで読んでくれる皆々様、心より厚く御礼申し上げます。今回は様々な理由により正直言ってこのトピックをパスしようかと悩みました。もっと正直言うと「なんで自分はこんなことしてんのかな!?HP閉めちゃおうか!?」と壁に当たってしまいました。でも頑張ったぞ、えへん。ちなみに今月のプレゼントはたおが実験的に作った「酸化石鹸&カビローション」です(ウソウソ)。最後に警告ですが、今回のトピックを読んでいきなり防腐剤買いに走らないようにね。バランス良い油脂の配合、需要に対する供給量の生産、正しい保存法を守れば悪臭ソープにお目にかかることはないのですから。

<参考文献>今回お世話になった活字は以下の通り:
"Soapmaker's Companion" by Susan Miller Cavitch
"A Consumer's Dictionary of Cosmetic Ingredients" by Ruth Winter
Articles on Preservatives by Dr. Bob McDaniel in "The Saponifiers" March/April 99 & May/June 99 issues
Rainbow Meadow's website: www.rainbowmeadow.com
Snowdrift farm's website: www.snowdriftfarm.com