~動物性油脂を使ってみよう~
どうも動物油脂っていうと印象がいまいちなようで・・・。それでは牛や豚がかわいそうなので、この場を借りて助けてあげたいんです。今月のトピックを読んで、どうか「動物油脂って素敵」とか"Animal fats are cool!"と思ってもらえますように。
(注)今回はSusan Miller Catvich著"The Soapmaker's companion"からの情報を翻訳・編集して掲載いたしました。情報が使用された箇所には本書のページ・ナンバーを記してあります。
【植物vs動物】
石鹸作り用の植物油で一番代表的なのはオリーブオイルですが、動物油脂の代表はなんといっても牛脂ですね。オリーブオイル主体の石鹸と牛脂主体の石鹸。その二つを比べて「動物性石鹸より植物性石鹸の方が優れている」と議論する人もいます。しかし、そこでたおは「ちょっと待ったぁ~!」をかけたいと思うのです。オリーブオイルVS牛脂??このふたつはライバルかな?今月は動物油脂のトピックですが、ここであえて植物油もひっぱり出してきて比較してみたいと思います。
【各油脂の脂肪酸比較】
脂肪酸とは「油の中味」だと思ってください。油脂の特徴が各々違うのは、各油脂を構成する脂肪酸の種類や割合が違うからなんです。まずはどんな脂肪酸があり、石鹸の中でどんな役割があるか見てみます。
(Susan Miller Cavitch "Soapmaker's Companion" p238より)
↓脂肪酸 | (ブクブク泡立つ) | (泡がはじけず残る) | |||
ハ | ハ |
脂肪酸とはなんだか目がチカチカするようなカタカナばかりですね。これだけではまだピンと来ないかもしれません。では、上の表を参考にしながら植物油脂の3大オイル「オリーブ」「ココナツ」「パーム」と動物油脂の2大オイル「牛脂」「ラード」の脂肪酸を比較検証しますっ!
(SMC同書p239-240より)
パルミチン酸 6.9% リノール酸 4.6% ステアリン酸 2.3% その他 | パルミチン酸 40.1% リノール酸 10.3% ステアリン酸 5.5% ミリスチン酸 1.4% その他 | ミリスチン酸 17% パルミチン酸 9% オレイン酸 6% ステアリン酸 2% リノール酸 2% その他 |
パルミチン酸 29% ステアリン酸 20% ミリスチン酸 3% リノール酸 2% その他 | パルミチン酸 28% ステアリン酸 13% リノール酸 4.6% ミリスチン酸 1% その他 |
【独り言&分析】ふぅ~ん・・・。オリーブオイルがしっとりするのはほとんどオレイン酸だからなんだぁ。だけどオレイン酸は保湿しか役割がない。だからキャスティール石鹸は、しっとりするけど柔らかくて泡立ちも弱いんだね。それに比べてココナツオイルはラウリン酸やミリスチン酸がたくさん含まれるから泡立ちが良く硬い石鹸が出来る。その代わりオレイン酸やリノール酸など保湿系の脂肪酸がかなり少ないなぁ。だからココナツオイル100%の石鹸は比較的ドライな洗い上がりになるんだね。牛脂やラードはどうだろう?「保湿」に貢献するオレイン酸や「硬さ」に貢献するパルミチン酸&ステアリン酸が結構バランス良く入ってる・・・ふむ。そしてパームオイルもそんな感じだ。各油脂の脂肪酸内容を比べて強く感じた事はやはり「牛脂石鹸 VS オリーブオイル石鹸」っていう対決はおかしい!ってことだ。全く違う特質の油脂を比べてライバルみたいに扱うなんて・・・。本当は牛脂とオリーブオイルは仲良く一緒に使うのが一番良い石鹸ができるんじゃない?だいたい牛脂はオリーブオイルよりもパームオイルにすごく似ているよね・・・。はっ!牛脂の本当のライバルはパームオイルだったのだっ!ってことは牛脂ってパームオイルの代わりに使えるんじゃない?(←実は前からこれが言いたかった!)牛脂なら気軽に入手できるし値段だって安いかタダだよね。ほとんど入手不可能な「ギー」よ、さようなら~!
と、いう訳で実は牛も豚もオリーブもみんなみんな仲良くしたい。もう「どっちがいい?」なんて言わず、各々の良い所を認め上手に配合してあげると良い石鹸ができそうですね。
・物性油脂ってどんなのがあるんだろう?
基本的にはどんな油脂でも石鹸になりますが、ここではスキンケアや石鹸に使われることが多い動物性油脂をいくつかリストアップしてみました。かっこ内の数値は苛性ソーダ用の鹸化価です。
・牛脂 (0.1405)
牛の脂肪を精製した脂。特に腎臓のまわりの脂肪はスエットと呼ばれちょっと贅沢な牛脂です。牛脂は石鹸製造に長年使用されてきた脂で白くて固い石鹸ができます。牛脂だけで作った石鹸はやや泡立ちが弱いので、泡立ちが良くするものを上手に配合すると良いと思います。牛脂の石鹸は寿命が長く「20年前の牛脂石鹸がまだ健在」という話しを聞いたことがあります。牛脂は非常に安く、またはただでもらえることもあるので、お肉屋さんと仲良くしておくといいですね。牛脂の精製は「面倒」「臭いが嫌」という意見がありますが、一度精製すると冷凍庫で長期保存が可能なので一度にまとめて精製しておくといいかもしれないですね。精製時の牛脂の臭いは焼肉屋の臭いですが、いざ石鹸になると臭いは気になりません(と思う)。でき上がった石鹸は精製の苦労の甲斐ある良質の石鹸です。まれに牛脂石鹸が肌に合わない人もいます。(しかしまれにオリーブオイルのアレルギーの人もいますからね。)
・ラード (0.138)
豚の脂肪を精製した脂。ラードは値段も手頃で入手しやすい動物性油脂です。すでに精製されて状態で売られていますから、買ってきたらすぐ使えるのもうれしいですね。(ラードが入手できない人はたおのように頑張って精製してください。)ラードで作った石鹸は牛脂のものに若干柔らかめですが、泡立ちも良くマイルドで汚れ落ちも良い石鹸です。ラードは気になる臭いがほとんどありません。
・エミュオイル (0.139)
大きくて飛ぶことができない鳥エミュ(「だちょう」みたいです)はオーストラリア原産。近年ではアメリカなど他国でも養育されています。このエミュから取れるオイルは最近スキンケアのみならず医学の面でもちょっとした注目を浴びています。保湿に非常に優れているばかりでなく炎症を抑える効果もあり、特にリューマチなどのマッサージオイルとしてエミュオイルが使われるようになってきました。特に気になるような臭いもありません。 エミュオイルは石鹸材料としてもなかなか優秀です。少量(5~10%前後)をバッチに加えることで固い石鹸を作り、洗い上がりの肌もソフトでつるつるになります。エミュオイルは値段が比較的高価で入手先も限定されているため、手に入りやすいオイルではないかもしれません。
・ラノリン (0.0741)
羊の脂腺から分泌されたもので厳密に言えば油ではなくワックスです。ウール精製する時に羊毛から取り除かれるので、言わば羊毛産業の副産物ですね。ヘビーなまでにねっとりしたラノリンは保湿効果抜群です。ガサガサひび割れた肌もラノリンを塗って一晩手袋でもしてたら、たちまち手のモデルになれる美しさ!しかしラノリンには臭いがあります。長年たんすの奥に放置されていたウールセーターの様な臭いです。しかし石鹸に加えると臭いは気になりません。少量(2~3%)を加えることで強力な保湿効果のある石鹸になります。日本での入手状況はわかりませんが、値段はそれほど高くないと思います。ウールアレルギーの人はラノリンでアレルギー症状が出る可能性があります。(たおのようにウールは苦手でもラノリンは大丈夫という人もいます。)そのため日本では表示指定成分だったような記憶がありますが・・・。
・ビーズワックス (0.069)
ハチの巣から取れるワックス。日本語名は「みつろう」。精製した白いビーズワックスは臭いがほとんど無く、無精製の黄色いビーズワックスはちょっとはちみつ系のにおいがします。スキンケア効果は全くありませんが、水と油を混ぜる乳化剤として、またクリームや石鹸などを固くする凝固剤として大活躍しています。石鹸に加える場合はほんの少量(5%以下)加えることで、トレースを早め固い石鹸を作ります。ビーズワックスは比較的安価で入手しやすいと思いますが、どうしても無い場合は文房具屋さんでみつろうろうそくを買って削ってください。とにかくスキンケア効能はゼロなのでひかえめに使うのがポイントです。はち製品にアレルギーのある人は使えません。
・タラ肝油 (0.1326)
タラの肝臓から取れた油で英語ではCod liver oilと呼ばれ薬局で販売されています。(日本ではあるかな?なかったらニシン油やイワシ油はあるのかな?)ビタミンAやDが豊富で栄養剤のように飲用されているようです。スキンケアとしても肌の治癒力を促進する役割があり、傷やできものなどに塗ったりします。また赤ちゃんのおむつかぶれにも大変重宝な油です。たおもカサカサの手に塗ってみたらしっとりしたので感動しました!しかしこの油は魚特有の臭いがあるためか、石鹸に使われたのは聞いたことがありません。どんなにおい?と聞かれれば「あ、今日の晩ご飯は焼魚だね!」と遠くから感じる時の臭いです。ただ肌に塗ってしまうと臭いは意外に早く消えてしまいます。石鹸に入れるとどうなんでしょうね?タラ肝油とキャットニップを入れて猫タオ用石鹸でも作ってみようかな。
・動物石鹸にチャレンジ!
【考え中】たおが作りたい石鹸は動物油脂だけを使って保湿・固さ・泡立ちをバランス良く配合した石鹸です。まずは牛脂とラードは代表的な油脂として石鹸のメインオイルにします。牛脂が入るので固さはばっちりですね。ラードである程度の泡立ちも出るでしょう。保湿には、たまたま持っていたラノリンとエミュオイルも少しづつ入れてみましょう。(←だってどうせプレゼントするならちょっと贅沢なのがいいじゃない?)う~ん、でも~、もう少し泡立ちを良くしたい。大きいのがぶくぶくじゃないくて、クリーミーな感じがいいな。でははちみつを入れてみようか?いちおう「それなりに動物性」ってことでズルじゃないよね?
【レシピ作成】
レシピは次のようにしました。本当はオンスで作ったんですけど、ここではグラムに直して書きますね。バッチサイズは453g、鹸化率は92%です。
- *動物石鹸*
水 175g
苛性ソーダ57g (8%ディスカウント=鹸化率92%)牛脂 204g
ラード 204g
エミュオイル 34g
ラノリン 11g
はちみつ 小さじ1.5杯
精油ブレンド 小さじ2.5杯
【精製】ラードが入手できず豚の脂身を購入。頑張って精製した。約1キロの脂身をさいころくらいに細かく切って水1/2カップと塩小さじ1/2を入れて、弱火で1時間半。それをざるでこして冷蔵。もとの脂肪のだいたい60%くらいがラードになった。牛脂も頑張って精製した。ラードと同じ方法で精製し、やはり60%くらいの精製牛脂が取れた。豚脂の精製時はにおいがほとんど気にならなかったが、牛脂は結構におう。牛脂を精製し始めたらすぐに、猫タオが「うまいものかぃ!?」と台所にやってきたし、ダンナも「すごいにおい。」と言って台所にやってきた。「今日は焼肉なのよぉ~。」と嘘を付いたがすぐバレた。
(参考)脂は半分冷凍ぐらいの方が細かくカットしやすいです。本当にお肉屋さんと仲がいい人は牛脂をもらう時にひき肉状にしてもらうといいと思います。それなら精製の時間もう~んと短縮されるしね。
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【石鹸作り】温度はちょっと高めの49度。かき混ぜている時の生地の色は「マミー」みたい。飲みたいナ。石鹸生地になったら牛脂もラノリンも全て臭いが消えた!感動~、こんなときだけ苛性ソーダに感謝する。40分くらいでトレースが出た。牛脂はトレースを早めるっていうけど、こんなものかな?ちなみに型に流す時の生地の温度は38度くらい。
【24時間後】さすが動物油脂!しっかりとした固さで型から出すのもラクチンだ。はちみつの色が出たので生クリームとカボチャで作ったプリンみたい。食べたいナ。ちょっと泡立ててみる。さすがにココナツオイル級の泡立ちは無いね。ちょっと気の弱そうな泡が申し訳なさそうにぶくぶく出ている。肌へのあたりは良い。24時間後だけどしっとりしてる。
【1週間後】ちょっと洗顔に使ってみたよ。なかなかしっとりしてる~♪うん、悪くないぞ!
【3週間後】やや動物的がにおいがしてきたかな?シトラス系精油ブレンドからほんのり「するめいか」の香りがするような・・・。でも洗った感じはしっとりつるつる~。結構いけるかも!!ビバ・動物石鹸!!
・最後に・・・
って思ってくれたかな?
あとがき:牛脂やラードの入手先もわからないまま発表してしまったトピックだったので、正直言って後から焦った!でもあんまり先のこと考えてなくても人生なんとかなるものですね。ここでは自分の知らないこと=知りたいことを勝手に調べて書いているんだけど、それが皆様にとっても興味の対象であることを願っています。今回情報提供をして頂いたteaさんには心よりお礼を申し上げます。そして今月も最後まで読んでくださった皆様方、どうもありがとうございました。