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Friday, August 20, 2010

粗末にしないということは

食べ物を粗末にしないとか、物を粗末にしないとか言いますが、粗末にしないってどういうことなんでしょう。粗末にしないということは大切に取って置くこと、と答える人もいるかもしれません。でも私にとって粗末にしないとは、機会を生かせるときに最大限にその機会を生かすことだと思います。食べ物ならおいしいときに食べること、物なら使えるときに使うこと。いつか食べるからと取って置いて駄目にしてしまったり、いつか使うからと永遠にクロゼットの中に入れて置くのは、粗末にしているような気がしてならないのです。生かせる機会を生かしていないのなら、その機会を粗末にしているような気がするからです。本当にその物が大切ならば、使える機会を与えてあげることがいいんじゃないかと思うんですよね。



さて、食べ物や物に関してはよく「粗末にしないように」と言いますが、私は他にも粗末にしてはならない大切なものがあると思います。それは人との出会い、関係です。私の定義から言うと、粗末にしないということは生かせるときに機会を最大限に生かすということなので、「いつか言おう」とか「そのうちお礼をしよう」とか「また今度会えるから、そのときに」なんていうのはせっかくの出会いや人との関係が粗末にされている、ということなのです。

なんでこんな事を書くのかというと、私はこれを身を以て知ったからです。最近、大切な出会いを粗末にしてしまいました。粗末の結果、駄目にしてしまったものは、もうどんなに後悔してももとに戻りません。それは腐ってしまった食べ物のように、錆び付いて動かなくなってしまった道具のように、「こうなるとわかっていたら」と言ってももう遅いのです。

20歳のころにお世話になった先生にいつかお礼を言わなくてはとずっと思っていました。でも事情があって少し後ろめたい気持ちがあったり、今の自分では会う資格がないとか、自分に自信がついてから会いに行こうとか、何年も伸ばし伸ばしにしていました。先生は太平洋のトンガ王国へ嫁いでまもなくご主人を亡くされ、その後もその土地に残り、国の人達のために尽くされました。先生はインターネットでトンガからのニュースレターの連載を長く続けていました。私はそれをときどき読んでは、いつかそこへお礼に行こうと思い、「来年こそは」と自分に言い続けました。

今年の夏、日本へ行く少し前に、久しぶりに先生のニュースレターを読んでみたら、そこには先生が末期癌であると書かれていました。すでに体調が思わしくなく、なんとか読んでいるメールだけが楽しみというようなことが書かれていました。病気のこともショックでしたが、それと同時に私は今すぐにお礼を言わなきゃ間に合わない!と焦りも感じました。動揺もしてたこともありますが、すぐに勇気が出ず、こんなときに長々と自分の都合でお礼なんて・・と躊躇してしまいました。この日はぼろぼろ涙を流しながら、ひとりで「どうしよう、どうしよう」とつぶやいていました。結局勇気を出してお礼のメールを出したのは翌日でした。

それから数日後、先生のニュースレターには管理者の方から、先生が亡くなったことを告げるメッセージが出ていました。亡くなったのは私がメールを出した日です。でも時差もあるし、私がメールを送ったより半日以上前に先生は息を引き取ったようです。私は全身の力が抜けてしまいました。あまりの罪悪感と後悔でしばらく泣く事もできませんでした。

先生が末期癌の宣告を受けてから亡くなる直前までのニュースレターを読むと、そこには全ての人達に対して感謝の気持ちがたくさん綴られています。どれだけ先生が人を大切にしていたかよくわかります。そして先生も多くの人達に愛され大切にされていたこともわかります。その先生に20年以上、お礼を言うどころか一言の連絡もせずにいた私は、こんなに素晴らしい先生と出会えたことを、ひどく粗末に扱ってしまったのです。後悔してもしきれません。「いつか、いつか」と思っている時点で、そのとき現在の関係をすごく粗末にしていたんです。今言ってもどうにもなりませんが、やりきれない気持ちでいっぱいです。

この気持ちをどうしようかとしばらく考えました。誰にも言わず、ひとりでずっと後悔し続けることが自分への戒めとしていいんじゃないかとも思いました。でもなぜか急に思い立って、今ここに先生のことを書いています。もしかしたら急に吐き出したくなっただけかもしれません。もしかしたらこの機会を生かし、自分への、そしてもしかしたら同じ様な経験をしている人へのメッセージとなればと思っているのかもしれません。私にとってのこの辛い体験は、自業自得と言えばそれまでだけの話しです。でもこの体験を生かすことができたら、せっかくの出会いを粗末だけで終わらせることがないような気もします。