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Friday, April 09, 2010

温度のはなし(2) 開始温度

高校生のとき、千葉から都内の学校へ通っていました。地元駅から高校の最寄り駅まで、行き方はいろいろありました。地元駅から私鉄を使い、常磐線に乗り換えてから山手線で渋谷。そこからは井の頭線で高校のある駅へ、というのがいちばんよく利用していた路線です。でも時間を短縮したかったり、乗り換え数を減らしたかったり、定期代を安くしたかったり、混雑のゆるい行き方や始発から座れる行き方など、目的にあわせて、時々路線を変更してました。出発地と目的地は同じでも行き方はものすごくたくさんあったんです。類は友を呼ぶのか、仲良くしていたさいたまの友達も、下北沢の友達も、吉祥寺の友達も多かれ少なかれ、いくつかの通学ルートを持っていました。「今日は○○だから、こっちから帰るね。」など、そのときの状況によって、みんなで一緒に途中まで帰ることもあれば、帰り道がバラバラになることもありました。



石けん作りの温度管理を考えたときに、ふと高校の通学ルートのことを思い出しました。石けん作りも、材料から始まり石けんというものができるまで、温度管理の選択がいくつもあります。つまり、スタートからゴールまで、条件や状況によりいろいろな道を通ることが可能なわけです。今回から数回は、私の実践している温度管理の通学ルートをご紹介しようと思います。まずは撹拌を開始するときに準備する苛性ソーダ水とオイルの温度(以下「開始温度」)について書きます。

前回は少し気温の話をしました。暑い日と寒い日では室温も変わるため、開始温度も調整する、という話でした。つまり室温により開始温度を高めにする、低めにするというそれぞれの道があるわけです。(温度が高いとか低いと言いうのは、完全な2択ではありません。)

ただ、気温(室温)だけで開始温度を決めることはありません。例えばバッチサイズが大きいと鹸化熱も出やすいので、開始温度は低めに設定しています。室温の低い日に作るときは、開始温度を高めに設定するのですが、バッチサイズが2、3キロと大きければ開始温度は40度くらいにしておきます(←この数字、あまりあてにしないでください。実際はケースバイケースで大きく変わります)。バッチサイズが5キロくらいなら、もっと開始温度を下げておくでしょう。
逆に500gバッチだと鹸化熱が外気温に負けてしまうため、室温が低いときはかなり高めにしておきます。(しかし実際のところ、どうしても撹拌中に熱が下がってしまうので、極端に開始温度を上げるよりは、撹拌中に温度調整しながら作業を進めていく方が効率がいいようです。)
室温とバッチサイズの他にレシピも考慮して開始温度を決めています。卵黄が入る場合は低め、水系のオプションが入る場合は温度が上がりやすいので開始温度は低め、非常にトレースが出にくい油脂がメインになる場合は鹸化を少し進みやすくさせるために開始温度は高め、生地を途中で小分けしてデザイン作業を行う場合は生地温が下がりやすいので開始温度はやや高め、オプションが多く入ることで生地温が下がると予想される場合は高め、などなどレシピとその作り方をざっと頭の中でイメージして、総合的に開始温度をどうするか決めています。

余談ですが、例えば出張講座に行った場合などは、用意されている道具を見て開始温度を決めることもあります。バッチサイズに対してサイズの大きなボウル、普段使っているものより針金の本数が少ない泡立て器などの他、空調の風の強さ、限られた時間配分、特殊な材料やレシピなどなど、何か違うことがあれば、その場で判断して開始温度を変更します。それが吉と出ることもあれば、あまり影響がないこともあります。というのは、開始温度はあくまでも撹拌を始めるときに作りやすくするための温度にすぎないからです。実際に撹拌が始まると、温度は予想より上がったり、下がったりします。そのときにはまた温度調整をすればいいので、あまり神経質になる必要はありません。
ただひとつ私が気をつけているのは、設定温度に迷ったときは低めにしておく、ということです。いちど撹拌が始まると、鹸化により生地は熱が出ます。生地温が上昇するのは自然な成り行きです。もし生地温が上がらなくても、湯煎やとろ火で生地を温めればすぐに温度は上昇します。生地の温度を上げるのはとても簡単なことです。でも反応が始まり熱がぐんぐん出ている生地の温度を下げることは容易なことではありません。冷蔵庫に入れたって、氷水にあてたってそんなにすぐにおさまるものではないのです。ですから、開始温度に迷ったら、まずは低めでスタートする、そして必要に応じて少しづつ温める、という方法がおすすめです。