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Monday, September 10, 2007

「草の海」

椎名誠の「草の海 モンゴル奥地への旅」(集英社文庫)を読み終えました。本当ならこういう旅ものの本は1日で集中的に読んで、その後2、3日どっぷり余韻につかり、自分も旅に行ってきたかのような充実感を味わいたいものです。しかしながら、現実は3行読んではコドモに邪魔され、半ページ読んではまたコドモの邪魔され。結局読み終わるまでに2ヶ月以上かかりました。しかもモンゴルの草原が写っていたカバーを途中でコドモがどこかへやってしまうし、まったくこの旅は子供に振り回され何を見たのか覚えてない、と言った状態です。

本に集中することはできませんでしたが、パーツパーツでぐぐっと引きつけられるところはありました。本の終わりの方に登場したニガヨモギの草原などはそのひとつです。ムングンモリトから6時間ほどのところにあるバヤンオーランという場所に到着すると一面にニガヨモギが広がり、「なんともいえぬやわらかくて清々しい香気に満ちている」というのです。この「やわらかくて清々しい香気」とは一体どんな香りなんでしょう?椎名氏は「一晩中この香りをかいで寝ていたのだから体にとてもいいのだろうな、と思わせるナニカがある。」と書いています。調べてみるとニガヨモギは英語でwormwood。健胃作用や強壮作用もあるけれど、薬にも毒にもなる強い成分を持つハーブのようで、写真を見ると、見たことあるようなないような、白っぽい草で黄色い花をつけていました。草餅を枕元に置いて寝るのとはちょっと(だいぶ?!)違うのでしょうが、ぜひともニガヨモギの草原の「香気」に包まれて寝てみたいものです。

そしてあとがきに書かれた椎名氏の言葉も深く心に残りました:

 生きている命がみんなそのことに一所懸命だ。人も動物も草も花もみんなてらいがなく生きていることに真剣だ。モンゴルとはつまりそういう国だ。

これには、(本を通して)モンゴルの旅をしそこねた私ですら、机をバンバン叩いて「その通り!」と叫びたいくらい強く共感しました。もちろんモンゴルに限らず、命とはそういうものなんじゃないかと思うのです。生きるというのは真剣なこと。植物にしても、花の色や香りは人を喜ばすためではなく、生きるための手段。地下で根を伸ばすことも、空に向かって茎を伸ばすことも生きるためなんですよね。

あとは余談ですが、アウトドア料理の名人、林(リン)さんが作る料理もおいしそう。ニガヨモギの香気同様、想像力をうーんとはたらかせて読みたいところです。