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Wednesday, March 10, 2010

温度のはなし(1) 温度設定

石けん作りをしていると、柔軟性って大切だなとよく思います。物事を決めつけたり、こうだと思い込んだりすると視野も狭くなり、先に進めません。逆に当たり前に受け入れていたことに疑問を抱いたり、否定していたものを肯定したりすることで、答えを見つけることができたり、おもしろい発見があったります。



例えば温度。私が石けん作りを習ったときは、コールドプロセスでは45度くらいにアルカリとオイルをあわせてから作ると教わりました。始めのうちはこれを充実に守って作っていましたが、出来上がった石けんは毎回違っていました。例えレシピが同じでも、生地の色や硬さがその都度違うのです。違いの違い方もの毎回違っていて(早口言葉じゃありません〜)、違いが微妙なこともあれば、大きく違うこともありました。私は「45度」が大切な決まりだと思っていたので、それを疑うこともなく、出来上がりの違いの理由がわからず、とても戸惑いました。
しかし、石けん作りを続けていくうちに温度が影響していることがわかってきて、室温が低い日は45度を55度にしてみたり、暑い日は35度にしてみたり、気温や室温にあわせて温度を調節すると、バッチによる違いがあまり出なくなってきました。その後しばらく35−55度くらいの間で調節していたのですが、あるとき真冬にものすごい寒い場所で石けんを作ることがあり、55度くらいではオイルを温めるそばから冷えてしまったため、オイルを70度に上げて苛性ソーダとあわせて作りました。またあるとき、真夏で室温が25度くらいあるときに、オプションで卵を使うこともあり、苛性ソーダもオイルも常温まで冷ましてから作りました。保温方法などももちろん変えましたが、できあがりはほぼいつもと同じ石けんになりました。高すぎる、あるいは低すぎると思っていた温度も、状況によっては作りやすい温度になることがわかりました。そこで私は「アルカリとオイルをあわせるときの温度」ではなく、「石けんが鹸化するために必要な温度」を考えながら作ることが大切なんだと気付いたのです(「必要な」というと語弊がありますが、コールドプロセス石けんの仕上がりを出すために鹸化しやすい温度、という意味です)。
室温によって温度を変えるようになると、今度は素材によっても、バッチサイズによっても温度を調節した方がいいということがわかりました。その後、できあがりの色を考えて温度を変えたり、教室では時間配分によって温度を変えたり、そして自分の気分によって温度を変えたりするようになりました。
撹拌しているときの気分が出来上がりの石けんに表れるということを信じない人もいるかもしれません。しかし気分は撹拌スピードやトレースの見極めにかなり影響しています。結果として鹸化に大きく影響してくるんです。仮に毎回同じレシピを作っていたとしても、作る条件は毎回大きく違います。材料が農作物だからロットによって成分が違うというようなことを抜きにしても、気温や室温、湿度、鍋・ボウルや泡立て器など道具の温度(←結構大事です!)、本人の気分などなど、2回として同じ組み合わせになることはありません。毎回同じような仕上がりにするためには、毎回まったく同じに作るのではなく、温度調節をはじめとした作り方を毎回微調整する必要があります。逆に言えば、毎回同じレシピで同じように作っているのに出来上がりが違う、ということはとても当たり前のことなんです。

もし私が習い始めた頃に、誰かに「ソーダとオイルは70度であわせても、25度であわせてもいいんですよ」と言われたら、私は絶対に受け入れることがなかったでしょう。だって「45度」って先生に言われたんですから(笑)当時は知識も経験もなかったし、柔軟に考えられる頭もありませんでした。変な例えですけど、新品の革靴みたいに硬くて柔軟性に欠ける頭をしていたんです。でも経験、特に失敗の経験とそこから生まれる疑問は、その硬い革をどんどん鞣してくれました。

アルカリとオイルをあわせる温度は状況により高くも低くもなると今書いたところですが、石けん生地は些細なことで温度の影響を受け、それによって生地質が大きく変わってしまうこともあります。温度管理がうまくいかず、石けんの色に均一感が出なかったり、白い線が入ってしまったり、イメージしていた生地感が出なかったという経験をした方も多いと思います。私は今でもそういう経験をよくします。思った通りにできなかったらがっかりもします。でも失敗作ほど貴重な作品はありません。私は失敗作が出たときは、なんで失敗したかではなく、この失敗石けんをもう一度作るにはどうすればいいのか、と考えるようにしています。偶然できた失敗作を意図的に作るのはとても難しいものです。英語ではto think outside the boxという言い方がありますが、従来の考え方を捨て、新しい物の見方をしたときに、何かおもしろいことを発見したり、求めていた答えに導かれたりするものです。予想しない石けんができたとき「これってどうやって作るの?」って思えたら、きっと石けん作りの理解が深まると思います。どうやって作るかを知ろうとすれば、どうやって作らないかもわかってくるからです。
石けんが上手く作れなかったときは温度が関係していることが多いのは確かです。しかし、温度が低かったとか高かったというのが、必ずしもスタート温度や保温中の温度ではないことも多いのです。マーブルをつくるときに生地を取り分ける容器やその生地をすくったスプーンが、生地よりもちょっと冷たいだけでも、石けんの出来に影響します。モザイク用に刻んだ石けんが、石けん生地よりも冷たければモザイクのまわりの石けん生地は白くなることがあります。撹拌している鍋のふちが冷たければ、型に流すときに、最初にふちに当たった生地は冷たくなります。そして型の表面も冷たいとその生地はさらに温度が下がります。あとから流れてくる生地はすでに最初に生地よって温められた鍋や型の表面を通るのでそれほど影響を受けません。結果、最初に流れた生地のみ温度が低いので、白っぽいマーブル模様のようになったります(あくまでも私の推論です)。

私にとって石けん作りとは、一見シンプルなプロセスの中に、目に見えない多くの要素が絡み合っているもの、だからこそ真逆のことが同時に真実として成り立ってしまうものです。石けん作りに対する理解はその人の経た経験によってさまざまであるのが当たり前で、履く人によって靴のかたちが変わってくるのと同じです。北で石けんを作っている人と南で石けんを作っている人では温度に対する考え方も大きく違うと思います。どちらが正解ではなく、どちらも正解なのです。
石けん作りの温度について考えることは、がちがちだった私の頭を柔軟にしていくためにとても役立ちました。だから私は温度のことを考えるのが大好きです。正直、レシピはひとつでいいから無限に温度の違いを探索していきたいと思ってるくらいです(笑)
11月のブログで、温度の話もこれからして行きたいと書いたのをもしかしたら覚えている方もいるかもしれませんが、これが第一弾です♪温度の知識を広めるためではなく、みなさんの革靴がよりご自身の足にあったものになっていってほしいという思いを込めて、これからも不定期でたまーにですが、温度のはなしをしていきたいと思っています。